ライブの感動

私の好きな画家で千住博さんという方がいます。千住さんはよく本を書かれており、どの本も面白いのですが、「絵を描く悦び」という本の中に次のようなくだりがありました。

「私はこういうところにひかれた、そしてこういうふうだったらいいなという、その、こうありたいというのが絵なのです。」

つまり、いい画家とは、実物そっくりな写真のような絵を描くのではなく、自分の感動を絵に表わすことのできる画家となります。

パブロ・ピカソの名言にも似たような言葉があります。

“I paint objects as I think them, not as I see them.”

「私は対象を見たままにではなく、私が思うように描くのだ。」

私は子供の頃は、美しい絵とか本物そっくりな絵がいい絵だと思っていましたので、ピカソの絵を見ても良さが全く分かりませんでした。何か子供の描いた絵のようで、なぜこんな絵が世界的な名画なんだろうと思っていました。

その後大人になってから、展覧会で10代の頃のピカソの絵を見る機会がありましたが、キュビズムの時代の絵とは違って素人目にも素直に上手いと分かる絵で、ピカソは本当はめちゃくちゃ上手い画家だったんだと初めて分かりました。(笑)

ピカソの代表作「ゲルニカ」は、現在マドリードのソフィア王妃芸術センターに展示してありますが、10年くらい前にたまたま出張でマドリードに行く機会があり、これはチャンスと「ゲルニカ」を観に行きました。それまで美術の本等で何度も見た作品でしたが、生で見るとその迫力に圧倒されました。写真では伝わらない、作品の感動が伝わってきたような気がしました。

私はたまに美術館で開催されている企画展に足を運びますが、知っている絵でも生で見ると感動します。美術館では、実は目の前の絵を見ているだけではなく、美術館の中の雰囲気も一緒に味わっているのかもしれません。

最近面白い本を見つけました。本のタイトルは「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」です。

これは全盲の美術鑑賞者、白鳥建二さんと一緒に、いくつかの美術館にアート作品を鑑賞に行った方がその時の模様を記述した本です。白鳥さんは全盲の方なので、ご自身では絵が見えません。そのため一緒に行った方が、言葉で絵の様子を説明していきます。白鳥さんは、この鑑賞方法をいろいろな美術館で実施されていて、実際には絵が見えなくても白鳥さんは十分楽しんでいるということがこの本を読むと分かります。白鳥さんは絵が好きというより、美術館に展示されている絵を他の人の感想を聞きながら一緒に観るというのが好きなようです。白鳥さんが美術館にアートを観に行くのは、その作品だけを観に行くのではなく、その作品が展示されている空間全体を味わいに行っているという感じです。

最近白鳥さんの話は映画にもなりました。

「目の見えない白鳥さん、アートを見に行く」(予告編)

私も、既に本や雑誌等でよく知っている絵であっても、美術館で生で見るとなぜかその方が感動するのですが、この白鳥さんのお話はその答えのヒントとなりました。

同じような文脈の話ですが、最近知り合いのプロのカメラマンの人と飲んでいるときに、ふと次のようなことを閃きました。

「写真家は見たものを綺麗に撮るのではない。見て感じた感動を写真に切り取るのだ。つまり、綺麗な写真を撮れる技術があるだけではダメ、感動する力、感動を発見する力、感動を写真に表現する技術が必要」

また、年末に葉加瀬太郎のコンサートをNHKホール (キャパ3500人) に聴きに行きましたが、満席の会場の熱気が凄く、上述の応用編として次のようなことを閃きました。

「コンサートに行くのは、その音楽を聴くだけのために行くのではない。その会場全体の空気に包まれて初めて感じられる感動を感じ取るために行くのだ」

これからの新しいビジネスは「感動の創出」がキーワードになると思います。

そういう意味で、エンタメ、ライブの価値が今後ますます上がっていくと思います。

例えば、最近サッカーワールドカップや井上尚弥のボクシング世界四団体統一戦が話題になりましたが、スポーツイベントの重要性はこれからもっと大きくなると思います。

バスケBリーグの「横浜ビー・コルセアーズ」(通称ビーコル)のホームコートが自宅近くにあります。昨年まではビーコルは弱く試合を観に行ったことはありませんでしたが、今年若手のホープ河村勇樹選手が正式に入団したことから、2024年のパリ・オリンピックではスターになるに違いない河村選手を身近で観れる機会は貴重だと、今年はこれまで4回ビーコルの試合の応援に行きました。応援に行った試合は2勝2敗で、試合そのものも面白かったのですが、毎回ホーム側の席に座って、ハリセンで音を出しながら皆で一緒に応援するのが気持ち良かったです。これはライブだからこそ味わえる感動でした。(但し、応援に行った初回だけは勝手が分からず、アウェー側の席に座ってしまったので、全力で盛り上がることができませんでしたが、笑)

感動っていろいろありますね。心地いい、気持ちいい、じ~んとくる等々。

幸せは、安定した日常と、たまにある感動する非日常の絶妙の組み合わせから来ると思います。安定した日常の秘訣は、健康でいいルーチンを持っていることだと思いますが、非日常側の感動はまだまだ探求する余地があると思います。今年もライブ感動体験がいろいろとありました。「立川志の輔新年PARCO独演会」、「トップガン・マーヴェリック」IMAX上映などなど。それらの中でも今年の個人的最大のヒットは「ソロDayキャンプ」ならぬ「ソロDay焚き火」を始めたことです。

さあ来年はどんな感動する場面に遭遇するのか、今から楽しみです。(笑)

3rd Stage

前の記事

「焚き火BAR」の企み
3rd Stage

次の記事

LIFE STAGE 理論のその後