蔦屋からの発想

私の好きな本屋に蔦屋書店があります。湘南T-SITE、中目黒蔦屋書店、六本木蔦屋書店などによく立ち寄ってみます。(今は無理ですが)

蔦屋書店は場所に応じてコンセプトが違うところがユニークですが、共通しているのは「心地よい空間」だということです。現在全国で本屋がどんどんなくなっていますが、リアル書店の蔦屋が逆にどんどん全国に広がっているのは、デジタル化している流れに逆行しているようで面白いですね。この動きを、私は逆行ではなく、デジタル化の先にあるアナログの見直しを先取りしていると考えています。未来のヒントが蔦屋に行ってみると感じ取れる気がしますが、蔦屋創業者の増田宗昭さんの本はヒントになることが多いので出版されるとその都度読んでいます。久しぶりにいくつか読み返してみました。予想通り発想刺激になる言葉がいろいろと詰まっていました。

以下本からの抜粋と、それを読んで私が思ったことです。

「TSUTAYAの謎」2015年出版

【幸せとは】

『世の中というものは、おしなべて人が便利になるように動いてきた。だけど、それが本当に人に幸せをもたらしているのか』

『改めて今、人の幸せを考え直さなくてはならないと、僕は思っているんだ。人の幸せとは、おそらく効率とは逆の方向を指していると思う。』

➡これからの幸せを考えるヒントです。

【心地よさ】

『「本を選ぶ空間や時間を大切にする」と言う体験を、お客さんに味わって欲しかった。』

『僕が提案したかったのも、1杯のコーヒーではなく、「ゆったりとした時間を過ごしてもらうこと」だった。』

『売りものは「心地いい時間」』

『ネットという存在、これ、利用者に対して「居心地」の良さを提供してると思う? 僕はそうじゃないと思う。』

➡ここにアナログの見直しのヒントがあります。

『(代官山T-SITEに)120台分の平置きの駐車場を設けたのだけれど、これって効率から言ったらありえない話。普通は、機械式のタワーパーキングにして、もっとたくさんの車を収容できるようにする。だって、駐車場にクルマを止めて、扉を開けて外に出た時、周囲が無味乾燥な駐車場じゃ、お店を訪れるワクワク感ってないじゃない。』

➡効率化とは逆の方向で幸せになるいいい事例です。でも、土地代の高い代官山でこれをやるのが凄いですね。

【ビッグデータの使い方】

『ビックデータを踏まえた上で、働かせる勘というものがある。このバランスこそが大事で、企画とは、この双方がなくてはならないものなのです。』

『データというものは過去のものだけど、徹底した事実の集積なわけ。だから、データが大きければ大きいほど、事実を忠実にスキャンしているはずだよね。それを、冷静に眺めて分析することから、未来に向けた切り口を見つける、感じることができる。僕の場合、ビッグデータ=事実を頭に入れた上で、縦横斜めに分析してみる。後は自分が感じることが大事。』

『なぜならお客さんは、気分でお店に来るものであって、理屈ではお店に来ないもの。だからデータで理論構築しても、あまり意味がない。』

『ビッグデータを、感性を使って企画に落とし込んでいくことが最も大事。』

➡新しいことを発想するときに、調査データを精緻に分析すると答えが分かったということはほとんどなく、実際はデータを眺めていてまず何か仮説を閃いて、それからそれをデータで検証して当たりをつけたというケースがほとんどです。

【組織論】

『社員に僕が求めるのは、常に自由であれということ。自由とは、やりたくないことをしないのではなく、やらなければならないことをやる。これが自由なのです』。

『実は自由でいることって厳しいし、難しいという話。管理されてる方が圧倒的に楽なんだよ、だから人は、無意識のうちに自由であることをやめて、管理されるようになってしまう。だけど、そういう社員に、本当の企画は立てられない。』

『並列型の組織の場合は、上から「これをやりなさい」って指示が出てくるわけじゃないから、自由な半面、決して楽じゃない。でも、楽じゃないから面白い。厳しいから楽しい。』

『並列型の組織では、「同じ方向を見つめる」ことが必要なのです。上司も部下も一緒になって、同じ方向に向かっていく感じ。』

➡任せるマネジメントの要諦がいろいろと詰まっています。

「増田のブログ」2017年出版

これは増田さんが、2007年2月から社員向けに発信を始めたブログの中から選んだ原稿をそのまま本にしたものです。10年間で約1500本発信されているというのが凄いです。読むとトップの生の声を発信し続けることの大切さが感じとれます。

『ひたすら、自分が感動することを探している。そして、見つけると、いいでしょう、と周りの人に勧める。』

➡自分が感動したことを、(大したことでなくても)周りの人に話すというのは、私も心がけています。そうすると、些細なことにでも感動するようになる気がします。

『代官山T-SITEは、12月にオープンして4年目に突入。いろんな人が真似をしても、いいものはできない。それは、T-SITEを作るプロセスで、いろんなことを考え、いろんな失敗を積み重ね、出来上がったから。』

➡確かに、失敗を山程やってどんどん改善し続けると、いつまでたっても追いつかれないですよね。

『小さな約束、お酒の時の約束、大きな約束を含め、できるだけ数多くの約束をし、それを実現することで、相手から信用されるように努力してきた。』

➡お酒の時の約束は、酒飲み話に終わってしまい実現しないことが多いですが、それを実現していくと信用に繋がるというのは大事ですね。

『直感で感じたことを検証するために、いろいろ調べて論理的に判断する。』

➡データから論理的に発想するのではなく、まず直感で当たりをつけ、その後データから検証して論理的に判断するというアプローチは好きですね。

『何を無駄な、バカなことを言ってるのか?と思われればシメたもの。なぜなら、同じようなことをする人が出てこないし、一番になるかもしれないから。』

➡私は、何か新しいことを閃くと、すぐ人に話すようにしています。その時相手から「それは凄くいいアイデアだね」と言われるより、「それはそうだけど、当たり前じゃない」と言われる方が結果的に上手くいくと経験上思っています。実現する新しいアイデアは、斬新なものではなく、当たり前だけど誰も気がつかなかったものの方が多いですね。

『リーダーは、その集団が持つべき夢を描く力が最も重要だ。』

『夢しか実現しない』

➡これいいですね。私の好きなフレーズです。

『本当の「自由」とか、「信用」というのは、当たり前のことをきちんとやる執念を持った努力の上に成立していると思う。』

➡信用は、当たり前のことをきちんとやる執念から生まれるというのは、言われてみればまさにその通りだと思いました。当たり前のことであっても、きちんとやるには「執念」がいるほど難しいですね。

『会社にいるな、世の中にいろ』

➡私がR&D部門のリーダーをやっていたときに、「外へ出る」ということをメンバーに奨励していました。自分の知識/経験だけから考えるより、外へ出ていろいろな発想刺激も受けて閃くことが大事ですね。

『価値ある提案を考えられてその提案内容が相手に伝われば、答えはイエスしかない、と思うから。だから必死で、相手のためになる企画を考える。』

➡提案をするときの心構え、勉強になります。

 

「情報楽園会社」1996年出版(増田さんが最初に出された本)

『新卒の採用については、昨年まで1次面接から私がやっていた。最初は5人ずつぐらい部屋に入ってもらって、集団面接を行う。面白いというか、不思議なのは、部屋に入ってくる時の足音を聞いただけで、次のチームにいい学生いるか、大したことがないかがわかる。これがもの見事にあたる。10分おきに5人ずつ、1日300人ぐらいの面接を続けていると、私の身体がある確率でそのことを知覚してしまうのかもしれない。』

➡出版された当時、私は人事部で採用チームリーダーをやっており、学生にたくさん会っていましたが、このくだりを読んでこれは本当だろうと思いました。数会うのは大事です。(さすがに私は足音では分かりませんでしたが、笑)

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