イーロン・マスク

イーロン・マスクの自伝面白いですね。

スペースXとテスラという、ともにハードウェア系で大規模産業という大企業ではないと手を出しにくい領域で、ゼロからどうやって立ち上げたかの軌跡がよく分かります。現在世界的大企業となっているGAFAMの大部分は、大規模設備投資が不要なソフトウェア中心の産業領域で起こっています。Microsoft、Google,Facebookはソフトウェア系ビジネスからスタートしていますし、Amazonは本の通販の新しいビジネスモデルの構築といういわばソフトウェア系ビジネスです。例外的にAppleはハードウェアメーカーですが、パソコンCPUという新しい技術が登場した波に乗って生まれたメーカーで、パソコンの大企業メーカーは当時存在していないブルーオーシャン市場でした。一方ロケット産業にしても自動車産業にしても、世界的大企業が既に存在している領域で、そこに個人が参入するというのはかなり無謀なチャレンジです。イーロン・マスクはその無謀なチャレンジに2つ並行して取り組み、ともに約9年で成功に導くという、常識ではありえない結果を出しています。(スポーツの世界に例えると、2刀流という常識外れのことを世界最高峰のMLBで成功させた大谷翔平です。笑)

今回このイーロン・マスク自伝の中から、マスクが何をやってきたのかを自分史的に(トピックの出来事を)抜書きしてみます。→以降は私のコメントです。(XはスペースX,Tはテスラに関する話です)

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1971年6月生まれ

1994年(23歳)

ペンシルバニア大学を卒業、専門は物理

卒論:「太陽エネルギー活用の重要性」(The Importance of Being Solar)

→大学時代にロケットや自動車の研究はしていない。仕事として取り組むことは、大学での専門に拘る必要はないといういい事例

1995年(24歳)

「Zip2」(電話帳をオンラインで検索可能にした上で地図ソフトウェアと組み合わせ、道案内を可能にするサービス)を起業

1996年(25歳)

Zip2は300万ドルの出資を受ける

1997年(26歳)

Zip2の契約が140社になる

→スタートアップを起業後2年で成功させている。早い

1999年1月(27歳)

Zip2をコンパックコンピュータに現金3億700万ドルで売却。イーロン・マスクは2200万ドル受け取る

→マスクは27歳で約30億円の現金を手に入れる

1999年3月(27歳)

1200万ドル投資して「X.com」(電子決済システムの会社)を立ち上げ

→1社目を売却後、早くも2カ月後には別の会社を起業している

1999年11月(28歳)

X.comを公開

→起業後、わずか8カ月で新しいサービスを立ち上げている。早い

2000年3月(28歳)

X.comは競合の「PayPal」と合併。合併後の会社名はPayPal、マスクはCEOに就任

2000年9月

マスクはPayPalのCEOを解任される

2001年9月(30歳)

X:宇宙でなにかしたいと考え、早速次の行動を起こす

・NASAのWebサイトで火星探査計画の記事を探す

・マーズソサエティの晩餐会に出席、火星入植のミッションを手に入れる

・図書館でロケット工学の本を読んだり、専門書や昔のエンジンのマニュアルなどを専門家に貸してくれと頼んだりして独学で勉強

・ロッキードやボーイングなど航空宇宙系の会社が集中しているロサンゼルスで、ロケット工学の専門家をホテルに集めて打ち合わせを重ねる

→まったくゼロからの立ち上げ。まずは自分で専門知識を徹底的に勉強している

最初はロケット会社を立ち上げるつもりはなく、火星探査の国民の機運を盛り上げNASA予算を増やすことを目的とした慈善事業を進めるつもりだった。そのために3000万ドルで火星に小さな温室を送り、緑の植物が育つ写真を地球に送る。それを見れば世論が沸騰し、火星行きミッションを求める声が巻き起こるはずだと考えた。

そこで、米国とロシアのミサイル廃棄計画で働いた経験を持つロケット技術者(マーズソサエティから聞いた)にコンタクト。ロシアで中古ロケットを買えるかを探るためにロシアに行く。

→思い立ったらすぐに行動している

2002年(30歳)

X:ロシアでの中古ロケット購入交渉がうまくいかなかった。そこで目標を変更し、デモ用温室を火星に送ることから、火星に人を運べるロケットを作る民間会社を立ち上げることにした

→うまくいかないと思うと、目標をさらに大きくするところが普通ではない

2002年1月(30歳)

X:自作ロケットエンジンを作るクラブのメンバーの技術者を数人リクルートする

→こんな何もないところからスタート

2002年5月(30歳)

XスペースXを設立

目標:2003年9月までにロケットを打ち上げられるようにする。2010年には無人の宇宙船を火星に送り出す

→ゼロから始めて1年後にはもうロケットを打ち上げるという非現実的な目標設定だが、結果的には2008年に(わずか6年で)ロケット打ち上げを成功させている

2002年7月(31歳)

PayPalはeBayに15億ドルで買収され、マスクは2億5000万ドル手に入れる

→31歳にして350億円の資産家になる

2003年初頭(31歳)

X:米国防総省から小型通信衛星の打ち上げ契約350万ドルを獲得(スペースXの初の契約)

→ロケット打ち上げにはまだ成功していないのに、5億円の契約を勝ち取る

2003年3月(32歳)

X:1段エンジン第1回試運転

→ゼロから始めて1年後にはエンジンの試運転までこぎ着けている。早い

2003年10月(32歳)

T:リチウムイオン電池で電気自動車を作るアイデアを持っていたブライアン・ストラウベルがマスクに接触、ストラウベルからそのアイデアを聞いてマスクは興味を持ち1万ドルを出資

→これがマスクが電気自動車に興味を持ち始めたキッカケ

2004年2月(32歳)

T:トム・ケイジと、アラン・コッコー二の作った電気自動車の試作車ティーゼロにマスクが試乗。マスクはティーゼロの実用化に興味を持つ

2004年3月(32歳)

T:試作車ティーゼロの実用化を考えていたテスラのマーティン・エバーハードにトム・ケイジがマスクを紹介する。マスクはテスラに出資を決め、640万ドルを投資、マスクは取締役会会長に就任

→現在のテスラの実質的スタート

2005年1月(33歳)

T:ロータスエリーゼのボディに、テスラが開発した電動パワートレインを組み込んだ開発車両が完成。マスクは900万ドルを追加出資

2006年初め(34歳)

X:ロケットエンジン点火試験に成功。3月にファルコン1の1回目の打上げを試みるも失敗

2008年2月(36歳)

T全て手作業で組み立てた最初のロードスターが生産ラインから出てきた

2008年8月(37歳)

X:ファルコン1の打上げ3回目も失敗、マスクの資産をほとんど使い尽くす

→スペースXもテスラもまだ成功しておらず、資金的にも危機的な状況だった

2008年8月(37歳)

X:スペースXはファンドから2000万ドルの出資を受け、何とか事業を継続できる

2008年9月(37歳)

Xファルコン1の4回目の打上げでやっと打ち上げに成功

→4回目が失敗していたら、スペースXはもう事業継続はできないというギリギリでの成功。わずか500人のメンバーでロケットを一から設計し、製造も全て自分達でやっているというのは常識ではありえない話(ボーイングは当該部門だけで5万人いる) 

2008年12月(37歳)

X:スペースXはNASAから国際宇宙ステーションまでの12往復の契約として16億ドルの契約を勝ち取る

→スペースXは、2200億円の契約を獲得しビジネスとしても軌道に乗る

2009年5月(37歳)

T:ダイムラーがテスラに5000万ドル資本参加することに合意。テスラは倒産するのを免れる

2009年(38歳)

T:製造原価6万ドルで大量生産できる4ドアセタン、モデルSを開発

2010年5月(38歳)

T:資産価値10億ドルと言われたことのあるカリフォルニア州フリーモントの自動車製造工場をトヨタが売りに出し、それをテスラは4200万ドルで買うことに成功

2010年6月(39歳)

Xファルコン9初の打ち上げ成功

→創業から8年、倒産の危機から2年で世界一成功している民間ロケット会社になった

2012年6月(41歳)

TモデルSの1号車がラインオフ

2012年末(41歳)

T:モデルSがモータートレンド誌のカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた

→名実ともに世界一の電気自動車メーカーとなる

ここまでの流れを整理すると、

・スペースXは、マスクが30歳のときに立ち上げ、37歳でファルコン1の打ち上げに成功しロケットビジネスの目処をつけ、39歳でファルコン9の打ち上げに成功しロケット会社として成功した。

・テスラは、マスクが32歳のときに出資を決めて実質スタートし、36歳で最初のモデル、ロードスターの製造を開始し自動車ビジネスの目処をつけ、41歳で低価格大量生産モデルのモデルSの製造を開始し、自動車会社として成功した。

2社ともにスタート後わずか約8年で世界で成功と認められるゴールに到達しているのは凄いことですが、もっと凄いのは、マスクは同じ時期にこの2社をリードして成功させていることです。

マスクは単に経営をリードするだけではなく、スペースXでもテスラでもいわばチーフエンジニア的立場で技術的な方針を(それまでの常識を覆す形で)指示しているのも凄いところです。(どちらの領域も大学時代の自分の専門ではなく、それぞれに携わるようなってから独学で勉強して技術的指示を出せるまでになっています。)

また、マスクが普通の人と違うのは、事業の可能性よりミッションの重要性に目を向けているところです。(ミッションありきでスタートし、金銭的に成り立つ形で進めるにはどうしたらいいかをその後に考えている) 2008年には2社ともに資金不足で倒産する危機に陥っていますが、普通なら片方を諦めて資金を1社に集中して生き残りを図るところを、両方とも世の中にとって大事なビジネスなのでなんとしても実現するんだというミッションドリブンを貫き通して危機を乗り越えているところが凄い点です。

スペースX、テスラそれぞれのミッションは次の通りです。(ともに壮大です)

・スペースX:地球になにごとか(核戦争等)あっても、他の惑星にも住むようになっていれば人類の文明と意識は生き残れる。そのために火星に入植するミッションに乗り出す

・テスラ:車を電動化しなければ持続可能な未来はない

ロケット産業は昔も今も米国が日本より圧倒的に進んでいますが、マスクがテスラに関わり始めた2004年当時、自動車産業は日本の方が米国より圧倒的に進んでいました。(リチウムイオン電池も同様です)そのため技術的には例えばトヨタとパナソニックが手を組んでいれば、日本でもテスラのような会社ができたはずです。でも残念ながら日本にはイーロン・マスク的人材がいませんでした。じゃあ日本ではそういう人材は生まれないかというと、例えばホンダを創った本田宗一郎、ソニーを創った盛田昭夫は、イーロン・マスク的人材だったと思います。近い将来日本発の画期的なビジネスが生まれるためには、日本でもイーロン・マスク的人材が育つことに期待するとともに、そういう人材が力を存分に振るえる環境を日本に合った形で整えていくことも必要だと思います。(米国では新しい事業はスタートアップから生まれてきますが、例えば大企業のパワーを縦横無尽に使いこなす仕組みを作ることが日本ならではのやり方かもしれません。)

(2024.1/3追記)

1月1日付け日経新聞の「日本が世界で再び飛躍するためにはどうすればよいのか、国内外の識者にヒントを聞く」という記事で、UC Berkeley教授で日本経済が専門のSteven Vogel氏の次のコメントが掲載されていました。

「日本にシリコンバレーを作ろうという人は間違った場所を探してるかもしれない。社内ベンチャーなど日本モデルの新バージョンを見つける方がよい。日本のエコシステム(ビジネスの生態系)に合っているからだ。」

今後の方向性のヒントになりそうな気がします。

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