熱中のすすめ

今日は4月1日です。多くの新入生が大学に入ってくる時期になりました。そこで新入生にお薦めの大学時代の過ごし方のヒントになりそうな本を紹介したいと思います。それは次の本です。

松岡陽子さんは、現在パナソニックの執行役員 次世代事業推進本部長をされている方で、パナソニックの100%子会社としてYohana(サブスク型のファミリーコンシェルジュサービスを提供する会社)を立ち上げ、その会社のCEOをされていますが、これまでの経歴が凄いです。

職歴

2019-現在:パナソニック

2017-2019:Google, Vice Presidet

2016:Apple

2015-2016:Quanttus, CEO

2010-2015;Nest Labs, Vice President

2009-2010:Google, Google Xを立ち上げ

2006-2009:ワシントン大学, 准教授

2001-2006:カーネギーメロン大学, 助教

1998-2001:ハーバード大学, ポスドク

学歴

1993-1995:MIT大学院, Ph.D取得(Electrical Engineering and Computer Science)

1993:UCバークレー卒業(Electrical Engineering and Computer Science)

松岡さんは、大企業のGoogle、Apple、パナソニックの幹部を経験し、ベンチャーのNest Labs、Quanttusも経験し、Quanttus、YohanaではCEOをされています。

大学もUCバークレー、MIT、ハーバード、カーネギーメロン、ワシントンと進み、准教授までされています。この本は松岡さんが自分史を語る形式になっていて、各時代でキャリアを変えていったキッカケ、経緯が詳しく記載されており、どの時代の話も面白いです。

松岡さんは、1971年東京生まれで、小学生のときにテニスを始め、都心の学校から毎日片道2時間かけて藤沢にあるプロテニス選手を目指すスクールに通い(夕方のラッシュで混んでる電車の中で、立ったまま大人の背中を借りて教科書を広げて小学校の宿題をやり)、16歳の時にプロテニスプレーヤーを目指して単身渡米、マリア・シャラポワや錦織圭も卒業したフロリダにあるプロテニス選手を養成するIMGアカデミーに入学。

ここまででも十分面白いのですが、その後の展開がさらに面白くなります。

大学はアカデミックランキングで世界トップレベルのUC Berkeley(テニスでも全米4位の強豪校)に進学して、テニスに打ち込みました(勉強にも)。ところが繰り返しケガに悩まされるようになり、大学の途中でプロテニス選手になる道を断念。

米国の大学は1、2年は教養で、3年から専攻が決まるので、その専攻を何にするかを悩み、ありとあらゆる学生や教授に話を聞いて回わった結果、自分と互角に戦えるパートナーのようなテニスロボット「テニス・バディ」を作りたいということを思いつきます。パートナーのようなとは、プレーの戦略を練るくらいの能力は備えているが、こちらがちょっとくたびれているときは、ゆっくり打ち合いをしてくれるような気配りができるロボットです。

さっそくテニス・バディの具体的なイメージを書き出して、世界のトップ研究者が揃うUC Berkeleyの教授たちを手当たりしだいにつかまえて聞いていきます。

「こんにちは、数学と物理が好きなテニス選手です。テニスの練習相手になるロボットをつくりたいんですけど、どうすればいいでしょう?」

ある教授のアドバイスで、大学院生や教務課のスタッフなどさらにいろいろな人に聞いて回った結果、進むべき分野を次の3つに絞ります。

・機械工学

・電気工学

・コンピューターサイエンス

さらに大学院生のアドバイスから、学部は電気工学の道を選び、「Controls and Systems」を専攻にしました。

とはいえ、学部の勉強だけではテニス・バディはつくれませんので、大学院への進学を考え、選択肢としたのが次の大学です。

・スタンフォード

・カーネギーメロン

・MIT

この中でMITに決めて1993年に大学院生活をスタートします。

MITに着くと現代AIの父と言われるマーヴィン・ミンスキー教授のもとを訪ねて、AIを使ってテニスができるロボットをつくれないかと聞いてみたところ、「AIとロボット工学を研究しているロドニー・ブルックス博士のところに行ってみたらどうかね」と勧められます。

その結果、ブルックス博士が担当しているAI研究所に入ってロボット工学に没頭します。

「ソフトウエアは全部自分でプログラミングし、チップを買って来てボードもつくり、モーターも自分で選んだものを入れました。」

その後MITで博士課程に進み、1998年にPh.Dを取得します。

修士2年目に入る前の夏休みには、ロボットアームを製作する会社でインターンを始め、またMITのビジネススクールであるSloan School of Managementで経営学の授業も受けます。

さらに、ロボットアームの高度化のためには、神経学の知識も必要と考え、MITのすぐ近くのハーバード大学の医学部にも足を運び、神経学を学びます。

このように興味関心あることには何でも首を突っ込んでみるという行動力は凄いですね。

MITで無事Ph.Dを取得した後は、1998年にハーバード大学のポスドクとして採用され職歴がスタートしていきます。そして、ここから先もダイナミックにキャリアが進化していきます。

どの時代の話も大変面白いのですが、私が注目したのは、大学時代です。今のキャリアの一番最初のキッカケ(私はこれを、その人の「大河の一滴」と呼んでます)は、大学の専門を決める時にテニスロボットをつくりたいと思ったところです。そこから、自分で動き回り、いろいろな人に話を聞きまくって、大学という舞台をフル活用しながら、自分の熱中することにはまりこんでいっています。

これって日本の大学生が大学時代を面白くするヒントが溢れているなと思いました。私は「J-CAD」という就活生の選抜コミュニティのメンバーの選考及びコミュニティの運営を始めて今年で7年目になり、毎年約1000名の自分史を読み、約500回選考面接をやっていますが、これまでたくさんの大学生を見てきて分かったことは、面白い学生には共通点があるなということです。それは大学時代に何かに熱中しているという点です。熱中といっても、例えば体育会の部活で一つのことに熱中し続けたパターンもありますし、半年毎にやりたいことが変わって、結果として対象が変わりながらも常に何かに熱中し続けたというパターンもあります。

松岡さんはもちろん非常に優秀な学生だったのでしょうが、それ以上に良かったことは、自分で動き回わって熱中できる対象を見つけ、それに熱中して取り組み続けたこと(さらにその対象が進化していったこと)だと感じました。

もし新入生に、大学時代の過ごし方についてアドバイスを求められたら、私は「学問のすすめ」というより「熱中のすすめ」をアドバイスしたいなと思います。(笑)

また、以前書いた「大学での楽しみ方」はこちらです。

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