まず人を選ぶ
最近読んで「やっぱりそうか」と腹落ちしたのが、今年出版された次の本です。
これは有名な「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの6作目になります。(第1作の出版は1995年ですから、今から26年前になります。)
この本の邦題は「ビジョナリー・カンパニーZERO」となっていますが、原題は「BE 2.0」です。この本は「ビジョナリー・カンパニー」シリーズが出る前の1992年に出版された同じ著者Jim Collinsの「Beyond Entrepreneurship」のアップデート版で、いわば「ビジョナリー・カンパニー」の先駆けとなった本を、この30年に分かったことでアップデートしたものです。
本の中では30年前に書いた部分と、今回書いた部分が色分けされていますので、この30年で進化した内容は何かが分かります。
この本にはいろいろな示唆に富んだフレーズが出てきますが、私が特にいいなと思ったところに傍線を引いてみました。傍線を引いた部分を抜き出してみると、30年前に書かれた部分と、今回新たに書かれた部分の両方がありました。
まず30年前に書かれた部分から抜粋したのが次の部分です。
『有効なリーダーシップのもっとも重要な要素は、会社のビジョンを誠実に実践することだ。価値観や目標はリーダーが「何を言うか」ではなく、「何をするか」を通じて社内に浸透していく。』
『誠実に「語る」だけでは不十分だ。誠実に「行動」しなければならない。一つひとつの意思決定や行動があなたの理念と一致し、それ自体がコア・バリューの表現になっていなければならない。あなたの会社で働くひとは、あなたの行動に驚くほど影響を受ける。』
『あなたは理想とする文化のロールモデルにならなければいけない。』
以上はリーダーシップ・スタイルについて書かれたパートからの抜粋ですが、私もR&D部門の責任者をやっていたときに「あなたの会社で働くひとは、あなたの行動に驚くほど影響を受ける」というのは実感しました。
そして今回新たに追加された部分から抜粋したのが次の部分です。
『なによりも大切で、絶対に失敗してはならないのでが「最初に人を選ぶ」原則だ。あらゆる事業活動のなかで正しい人材をバスに乗せること以上に重要なものはない。』
『企業が追跡すべきもっとも重要な指標は、売上高や利益、資本収益率やキャッシュフローではない。バスの重要な座席のうち、そこにふさわしい人材で埋まっている割合だ。適切な人材を確保できるかにすべてがかかっている。』
『正しい人材さえいれば最初のアイデアが間違っていても最高の結果を出すことができる。』
『最高のアイデアを間違った人材に任せると駄作になる。だが間違ったアイデアを最高の人材に与えれば傑作に仕上がる。』
私もJT時代に採用の重要性は常に意識しており、R&Dの責任者をやっているときも、いろいろな研究テーマがありましたが一番重要なテーマは採用だと考えていました。R&Dは人が財産なので長期的に見ると採用が最重要というのは当たり前ですが、ついつい目の前の研究テーマに目が行きがちです。そのため、私のダイレクトレポートラインの部長や所長には、採用が最重要だという話をよくしており、いい人材がいれば自ら口説くよう話していました。(もちろん、私も率先して学生を口説きに行きました。笑)
なにかで読んだ話でなるほどと思ったのが、「その会社の今年の業績は営業力を見れば分かる、3年後の業績は商品力を見れば分かる、10年後の業績は採用力を見れば分かる」というフレーズです。ベンチャー企業で伸びている会社は、知名度のない初期の段階でも、いい人を採ることに徹底的に拘ったという話をよく聞きます。私が初めて採用担当をやった1987年頃だと、リクルートの創業者の江副浩正さんが採用に徹底的に力を入れているトップとして有名でした。今だとDeNA創業者の南場智子さんが自ら採用に力を入れて取り組んでおられるトップの代表例だと思います。
短期的な業績は景気等世の中の外的要因に左右されますが、リクルート(今でも採用にかなりパワーをかけられている企業です)やDeNAの様な会社は長期的には成長し続けるのだと思います。
最後に、人に拘る別の側面の良さについて、この本に書いてあったフレーズがあります。
『とりわけ私の生き方を大きく変えたのが「まず目的を選ぶ」から「まず人を選ぶ」への発想の転換だ。何かを成し遂げること自体にそれほど意味はなく、満足感は長続きしない。だが正しい仲間と協力しながら何かを成し遂げようと努力する過程には、途方もない満足感がある。』
いい仲間と一緒に何かを成し遂げて、皆でビールのジョッキをぶつけ合って乾杯する。この瞬間のために仕事を頑張るのではないかと錯覚するくらい、いい瞬間でした。仕事の醍醐味はこれですね。(笑)