3年3割
毎年就活に関連して出る定番の記事があります。それは「最近の新入社員は入社3年以内に3割辞める」という記事です。最近はファーストキャリアという言葉があるように、転職するのが当たり前になってきたのでこんなに多くなったのかと捉えがちですが、私が初めて採用担当になった1987年にも似たようなことが言われていました。つまり、3割というのは最近の傾向ではなく、昔からずっと変わっていないということになります。
データを見てみましょう。マスコミが取り上げる元データは厚生労働省が毎年10月に公表する「新規学卒就職者の離職状況」です。最新データは2020年10月30日に発表されたもので、2017年新卒就職者 (大卒) が3年目の20年3月末までに離職した率は、32.8%でした。
過去30年さかのぼって10年毎のデータの平均を計算してみると次のようになります。
2009年入社~2017年入社→31.5%
1998年入社~2008年入社→34.7%
1988年入社~2007年入社→28.2%
データは多少上下していますが、ざっくり3割というのはこの30年変わっていないことが分かります。
それにしても3割は実感値と比べて高過ぎると感じられるかもしれません。もう少し実感値に近いデータとして、厚生労働省が上記データと同時に公表する「事業所規模別就職後3年以内離職率」の中の「事業所規模1,000人以上」というデータがあります。2017年新卒就職者 (大卒) は26.5%でした。こちらは2003年入社~2017年入社のデータがありましたが、この間の最高27.2%、最低20.5%、平均24.1%でした。つまり大企業就職者に限ると、ざっくり2割となり、何となく実感値に近い値になります。
転職する理由はいろいろあると思いますが、新卒3年以内に限ると、就職先の社風とのミスマッチが大きな要因を占めると推察します。実際に転職する人が大企業で2割いるとすると、就職先がミスマッチだったと気がついても3年以内に転職まで踏み切れない層も結構いると考えられることから、倍の4割程度はミスマッチを起こしている可能性があります。(かなり乱暴な計算ですが)
今は昔と違い情報はたくさんあり、容易に入手可能でありながら、なぜ4割もミスマッチを起こすのか。そのメカニズムについて考えてみました。
就職活動対象の企業が10社あるというモデルケースで考えてみます。世の中の事象は、正規分布に從ってばらつき、大きく分けて2:6:2に分かれるということがよく言われます。社風とのマッチングにもこの法則が当てはまるとすると、2社はすごく合い、6社はどちらともいえない、2社はまったく合わないとなります。さすがにまったく合わない2社を選択する就活生はほとんどいないと思いますが、ではすごく合う2社のどちらかを選択する就活生がほとんどかというとそうでもありません。
ほとんどの就活生は「仕事の内容が面白い会社はどこか」という視点で企業選びをしていきます。ということは、まったく合わない2社を除いた残り8社の中から1社を選ぶ基準は仕事の内容となり、その企業の社風と合うか合わないかとはなりません。単純化して考えると、どちらともいえない6社の中にも差はあるので、その6社の中の社風相性度が下位3社に入ると入社後ミスマッチを感じるとしてみます。その場合、ミスマッチを感じる企業を選択する確率は3社/8社=38%となり約4割となります。
上記超ラフ計算が正しいとすると、就職対象企業10社の中でミスマッチと感じない上位5社を選択できれば、3年以内に転職する確率は下がることになります。本当は上位5社の中のどれかではなく、すごく合うと感じた2社のどちらかを選択できればもっといいですね。
このすごく合う2社を選択するのが当たり前になるようにするためには、発想を変えなくてはならない就活の常識が2つあります。それは次の2つです。
①就職先を選ぶ際に最も重視すべきは仕事の内容で、面白い仕事ができる会社に入りたい。(会社を選ぶ基準は仕事の内容であって、社風ではない。)
②社風は調べても分からない(採用HPを見ても分からない、会社説明会に参加しても分からない)ので、社風で会社選択をすることは実際上無理。
この2つの常識について、私はこれまでに採用の仕事に加えていろいろな種類の仕事(理系的仕事や文系的仕事、国内の仕事や海外の仕事、本社の仕事や工場の仕事)もやった結果、次のような違う考えを持つようになりました。
①世の中に面白い仕事がありその仕事につくと面白いのではなく、仕事をする力をつけると結果として仕事は面白くなる。そのため、面白い仕事をしたいのであれば、仕事の内容で選ぶより、仕事をする力が一番つく会社に入る方がいい。
仕事をする力をつけるためには、(教えてもらって力がつくのではなく)自分で考えて、自分でやって、結果を出すことを一生懸命やり続けるしか方法はない。一生懸命やり続けられるかどうかを一番左右するのが、その会社の社風が自分に合っているかどうか。(給与等条件の良さだけでは、一生懸命やり続けることは困難)
以上より、新卒時の就職に際しては、仕事の内容(職種)より社風との相性度合いを最重視して会社選択をする方がいい。
②社員と一定の条件下でコミュニケーションを取る機会があれば、就活生でも会社毎の社風の違いは感じ取れ、どの会社が自分に一番合うかを判断することはできる。
上で述べた就活の2つの常識にとらわれない就職活動を学生に可能にするために、まずスモールスケールで実験してみようと思い始めたのが「J-CAD」という就活生コミュニテイです。J-CADは今年で5年目になりますが、毎年少しづつ進化し続けて、今年でほぼ完成形が見えてきました。(J-CADのメンバーは、すでにこの就活の常識にとらわれない就職活動をするようになってきています。)
そこで、世の中にこの考え方をもう少し広めようと、今年から「J-CAD Glocal」という別の就活生コミュニティを立ち上げました。
これをやってみると、やって初めて分かることが今回もいろいろとありました。てことは、この活動を続けていくと、この常識にとらわれない考え方を世の中に広めるもっといいアイデアがそのうち降りてくるに違いないと期待しています。(笑)