起きて半畳、寝て一畳
Appleが今年発売したVision Proに注目しています。メリットは何かというと、目の前に巨大なスクリーンが展開するということなんですが、本当にこれが必要なのかというと、まだ使ったことがないのでよくわかりません。(笑)
昔、Macintoshが出た当初の1986年、初代のMacintoshを使い始めました。正確に言うと、初代の128KをバージョンアップしたMacintosh Plusという初めて日本語も使えるようになったMacを使いました。その当時のMacのモニターサイズは9インチでした。今では考えられないくらい小さなサイズですね。現在、私の仕事場では目の前にはMac miniに繋がった27インチのモニターがあり、サイドには画面サイズ13インチのMacBook Airを置いて2台のディスプレイを連携させて仕事をしています。
その当時9インチの小さな画面で仕事している時に満足に仕事ができたかというと、実は結構できたんですね。当然、画面が小さいので不便ではありましたが、意外と人間の思考の範囲というのは9インチ内でも十分に表現できるというのがその時の感覚で、実際に全ての仕事をその9インチのモニターでこなしていました。
しばらくして、びっくりしたことがあります。その頃、システム手帳というルーズリーフタイプのシートの差し替え可能な手帳が世の中で流行っていたんですけど、当時、流行っていたのは英国製の「ファイロファクス」というリフィル(差し替え可能なシート)を使うシステム手帳でしたが、私は、ファイロファクスは大き過ぎてスーツの上着の内ポケットに入らなかったので(当時ファイロファクスを使っている人は手に持って歩いていました)、日本製の「システムダイアリー」というやや小ぶりでリフィルの差し替え可能なシステム手帳を使っていました。
システムダイアリーは上着の内ポケットに入るサイズだったので、常時携帯して、そこに手書きでスケジュール、アイデア等いろいろ書き込んだり、いろんな資料をはさみ込んで持ち歩いていました。ちょうどその頃(1988年に)そのシステムダイアリーの開発ストーリーを開発者の奈良聡一郎さんが解説した本「電脳システム手帳」が出版されたました。その手帳があまりにも使い勝手がよかったので、どうやって開発したのかなと思ってその本を買って読んでみました。その本に記述されていたのが、この本の文字記載部分はシステムダイアリーのリフィルのスペースと同じですということです。リフィルサイズは140mm x 82mmと小さく、その解説本は新書版ではなく通常サイズの本だったので当然上着の内ポケットに入るサイズではありません。そこで、同じスペースのはずはないと、システムダイアリーのリフィルを本のページに重ねてみると確かにリフィルと同じスペースにしか文字はありません。本の各ページには文字の上下左右に余白があります。実は文字があるスペースはそんなに大きくないということが分かりました。意外と人間の感覚は正しくないなと思いました。
次に、あれっ、このリフィルサイズってMacの画面にかなり近いなということに気がつきました。そこでそのリフィルを1枚、Macの9インチ画面に重ねてみたら、なんと画面上の文字の打てるスペースはリフィルとほぼ同じサイズでしたので、再度びっくり。
奈良さんがシステムダイアリーを作ったのは1968年で、Steve JobsがMacを作ったのは1984年です。お互いに参考にするはずがないのに、たどり着いたサイズがほぼ同じだったというのは面白いですね。本質的に必要なものは、誰が考えても同じ答えになるのかもしれません。昔のことわざに「起きて半畳、寝て一畳」というのがありますが、本当に必要なモノは意外と少ないのだと思います。(今の仕事場も一畳くらいしかありませんが、まったく不自由はないです。笑)
仮に新しい企画を考え出すToolとしては9インチでも十分だとすると、冒頭紹介したVision Proのメイン用途は何になるのでしょうか。私は、考えるToolではなくエンタメ系の映像等体験するToolとして最適なモノとなるような気がします。
これからの時代、モノは一畳で十分だとすると、コト消費がメインになってくると予想しています。コト=「感動する思い出となること」と定義すると、Vision Proはこの分野でいろいろな可能性がありそうな気がします。
こういう新しいモノの使い道は自分で体験してみないとイメージが湧きにくいですが、想定通りの機能があるとすると、Vision Proを装着すると(半畳のスペースがあれば)いろいろな体験ができることになります。つまり必要なスペースは、まさに「起きて半畳」で十分となります。(笑)