デザインの力

久しぶりに青山ブックセンターに立ち寄ったところ、写真がたくさん掲載されている「MAZDA DESIGN」という美しい本を見つけ、思わず買ってきました。(笑)

◯◯デザインという本が出るのは、プロダクトのデザインにその企業らしさを感じる統一的な美しさがある場合だと思います。今までこういうタイトルの本で目についたのは「Apple Design」「Sony Design」がありましたが、最近のマツダのクルマは、Apple、ソニーと同様に統一感のあるプロダクトの美しさを感じます。

マツダのデザイン改革の歴史は2010年に始まりました。

2010年:新たなデザインテーマとして「魂動(こどう)ーSoul of Motion」を掲げる

2010年:魂動のビジョンモデルとして「靭(SHINARI)」を発表

2012年:魂動をデザインを採用した最初のモデルとして「CX-5」「アテンザ」を発売

2015年:「RX-VISION」を発表

2017年:「VISION COUPE」を発表

この中でも、最も新しいコンセプトモデル「VISION COUPE」は特に美しいクルマです。

この「VISION COUPE」のデザインに関する解説がこの本にありましたので、以下抜粋します。

『現在の、進化を遂げるマツダデザインが強く意識するようになったのが、日本の美意識だ。日本人は自然と一体化した美意識を持っており、クルマも自然に溶け込むべきであると考えた結果、当初魂動デザインで取り組んでいた野生動物(チーター)の動きを参考としたような直接的な表現から、控えめでありながら豊かな日本的な美の表現へ進化、深化した。』

➡「日本の美意識」を意識したデザインと聞くと、どんなデザインなのか期待感が高まります。

『VISION COUPEのデザインでは、「余白」や「移ろい」、「反(そり)」や「間」といった日本の美意識が取り入れられている。引くこと、省くことによって生じる余白は、対比的にある主体を引き立たせつつ、余白の奥に無限に広がる自然や、目に見えない「心で味わう美」を創り出す。VISION COUPEのボディーサイドに広がる余白が立体の奥行を予感させ、かつ主体であるボディーショルダーのハイライトを引き立てる。元来、繊細な光の変化や四季の「移ろい」に美を見いだす感性は日本人ならではのもの。ボディーサイドの余白に広がる光と影の移ろいが、新たな生命感表現となっている。』

➡この解説だけでは実際のクルマのデザインはイメージできませんが、私は何となく京都の良さをイメージしました。

『ボディーショルダーに走るシャープなリフレクションは、凛とした曲線である「反(そり)」。これが刀に通じる緊張感を与えている。古来からの伝統建築様式「間」の考え方は、緩やかに包まれる心地よいインテリア空間づくりに寄与している。』

➡クルマと刀はまったく形状が違いますが、この解説を読んでから実際の「VISION COUPE」の動画を見ると、「刀に通じる緊張感」という解説に納得できます。「凛」「間」という表現も、日本の美意識に根ざした表現でいいですね。

『一見すると単純なVISION COUPEボディは、これまで表現してきたリズミカルな動きを抑制し、研ぎ澄まされた引き算の美学を追求した造形だ。一切の無駄を削ぎ落としたような凝縮感を与え、極めてシンプルでスピード感あふれるワンモーションフォルムは、ボディーショルダーに凛とした緊張感のあるハイライトが走り、光を反射して輝く。シンプルな立体で引き算の美学を体現するVISION COUPEには走行中、絶えず周囲の景色が映り込み、それらの動きが車に生命感をもたらす。』

➡「引き算の美学」というのが、日本の美意識を体現していていいですね。シンプルなフォルムでありながら、ボディに映り込んだ周囲の景色の動きがクルマに生命感を与えるという発想は凄いです。

『世界で戦うためにマツダのブランドスタイルをつくり上げるには、日本の文化や思想、美意識といったものを理解し、吸収し、表現することが不可欠。』

➡市場のGlobal化が進めば進むほど、ブランド価値が重要になってくると思います。ブランド化できないと、その商品は単なるコモディティとなってしまい、競争の源泉は価格の安さになってしまいます。従来の日本のメーカーの競争力の源泉は、高品質、低コストでしたが、これからは日本の良さ(日本の美意識)を付加したモノ作り、ブランド作りがGlobalで生き残れるかどうかのカギになると思います。最近日本のメーカーのプロダクトは、Globalマーケットであまり元気がありませんが、マツダのこの大胆にエッジを効かせたアプローチ(日本的良さに根ざしたプロダクトで、Globalマーケットで勝負する)がうまくいき、日本のメーカーのロールモデルになってくれると、日本のモノ作りが次のステージに上がれるような気がします。

2010年に始まったマツダのデザイン改革は既に約10年が経過していますが、まだ進化の途上です。ブランド価値を創り出すというのは、2~3年で成果が出るものではなく、10年くらい本気で取り組み続ける覚悟が必要なのだと思います。(Steve Jobsが1997年にAppleに復帰して2007年にiPhoneを出すまでがちょうど10年でした。)

「VISION COUPE」の実際の姿は、次の動画を御覧ください。上に抜粋した解説は文字ではよく理解できないと思いますが、実機を見るとなるほどと納得できます。

「Mazda Vision Coupe @ the Concrso d’Eleganza Villa D’Este」

このコンセプトモデルを基にしたクルマがそのうち(2022年?)登場すると言われていますが、実機でどこまでこの美しさを実現できるのか、今から目にするのが楽しみです。

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