プロ野球からのヒント
最近、イチローと糸井重里さんの対談本を本屋で偶然見つけ、読んでみました。
これは2004年春にTV番組の収録でお二人が対談した内容をそのまま本にしたものです。2004年というのはイチローがメジャーリーグの年間ヒット記録262本を達成した年です。つまり成績最高のシーズンに突入する前という、結果的にイチローがプロ野球選手として最も油の乗ったタイミングでの対談となっています。超一流のプロ野球選手のイチローと、超一流のコピーライターの糸井重里のぶつかり合い。2人の掛け合いをワクワクしながら読みました。
まず本の帯に書いてある糸井さんのコピーがいいですね。
『ヒット1本が、どれほどうれしいか。ぼくらは、いまごろになって理解する。』
まえがきから凄いことが書いてあります。
『野球部のない学校にいながら野球をやりたかった少年イチローの練習相手を、おとうさんがした。ふたりは、休まず練習しようという約束を守って、小学校二年生の終わりの頃から六年生の終わりの時期まで、ほんとうに四年間、一日も休まずに練習を続けたという。』
そして対談スタート。糸井さんのイチローへの最初の質問がさすがです。
「パンツはブリーフですか? トランクスですか?」
イチローは、中学時代に既に将来を見切っていたという次のエピソードも凄いです。
「小学校ではあまり勉強しなかったんですけど、中学になって、それじゃマズイって、一生懸命勉強したんです。テストの点はとれました。実際、自分ができる限りの勉強はしました。でも、一番にはなれなかったんですよ。学年で七番とか八番にはなれても、決して一番にはなれなかった。それで、勉強はあきらめたんですよ、ぼく。」
「野球は、みんなが一生懸命やってる。ぼくは適当にやってる。でも断然トップなんです。しかも、まだ自分の中に、余裕があった。そこで勉強を捨てられたことっていうのが大きかったですよ、ぼくにとって。見切りをつけられた、っていうか。」
「(勉強で)これ以上やったところで、人より抜きんでることはできない。でも、野球だったら、好きだし、まだ余裕が十分にあるから、おそらく一番になれる。そうやって見切ったんです。それは大きかったんです。一生懸命勉強したことで、野球ができるようになった、とは言えると思います。」
イチローの「一生懸命勉強したことで、野球ができるようになった」という視点が面白いですね。
対談の最後の方で糸井さんが質問した、お金の価値についての回答も、イチローらしく本質的です。
「何を贅沢というかというと、気持ちの問題だと思うんですよね。決してそれは、値段ではない。今ぼくがいちばん贅沢だと感じていることは、カップラーメンをミネラルウォーターで食べることや、お米をミネラルウォーターで炊くことですから(笑)。贅沢とは、決して高いクルマを買うことではないし、高い時計を買うことでもないと思うんです。それは、精神的に贅沢とはいえないですよ。」
この本には野球についての面白い(本質的な)話がいろいろと出てきますが、野球とは関係ないコメントの方がなぜか記憶に残りました。
以前、元プロ野球ヤクルトスワローズのエースだった川崎憲次郎さんから話を伺ったことがあります。その時、川崎さんはプロ野球の話をされたのですが、ビジネスの世界にも通じるなと感じたことがたくさんありました。
例えば、
「プロ野球で成功するかどうかは、練習するかどうかです。」
ここで言う練習とはみんなと一緒にやる練習ではなく、それ以外に一人でやる練習のことです。プロ野球に入ってくるのは、高校時代は皆エースで4番でその地域で傑出していると言われた選手ばかりなので、才能の違いは紙一重。結局練習した奴が活躍するとのことでした。
また、最近TVで観て凄いなと思ったのは、西武ライオンズの山川穂高選手が、試合が終わった後に室内練習場に1人残ってピッチングマシン相手にバッテイング練習している姿です。山川選手は現在パ・リーグの本塁打数でトップを独走している強打者ですが、その選手が試合後の疲れている中、毎晩遅くまで一人で居残り練習をやっている姿に感銘を受けました。
山川選手はプロ野球選手になって5年目の昨年ブレイクし、本塁打47本で本塁打王のタイトルを取りました。ビジネスの世界でも、社会人になって(プロの世界に入って)最初の5年間バットを振り続けることができるかどうかが、その後の成長を大きく左右すると感じています。ビジネスもプロの世界なので、才能だけでトップレベルに行く人はいないと思います。自分でバットを振り続けて力をつける。これが面白い仕事ができるようになるかどうかのカギだと思います。