4STEPs 解説(STEP1)
私がR&D部門の責任者をやっていたときに、R&D部門を仕事がおもしろい組織にするために推進した「4STEPs」という取組があります。
その内容を3回に分けて解説します。
STEP1―上司は部下に自分の思いを伝える
仕事上の信頼を得るには、上司はやさしいだけではダメです。部下から好かれたり、あるいは慕われたりするかもしれませんが、そこ止まりでしょう。単に「いっしょに飲みたい上司」に位置づけられてしまう可能性があります。
たとえば生きるか死ぬかの瀬戸際にある戦場で、右か左、どちらに進むべきかと悩むときに、兵士たちが「指揮官が右というなら、たしかに右に行ったほうが生きて帰れる可能性が高いな」と思ったとしたら、その指揮官は信頼されているといえます。
ビジネスだって、命まで取られることはないにしても、上司が判断を間違えば、部下も巻き添えを食います。上司のことをいくら慕っていても、判断に信が置けなければ、部下がついて来てくれないのです。
この信頼というもののベースには、「理解」「共感」「納得」という三つのレベルがあると、私は考えています。
まず「理解」というのは、日本語の意味がわかる、ということ。さきほどの「右・左」でたとえると、「上司が右だと言っていることは根拠も含めて理解できるが、自分は左のほうが8割の確率で生きて帰れそうだなと思っている」状態です。
次の「共感」レベルになると、「いろいろ話を聞いていると、上司の言う通り、右もありだと思えてきたな。51対49で、まだ1だけ左のほうがいいと思っているけど、右だとする考え方もうなずける」という感じになります。
さらに上司といろいろ話した結果、「最初は上司の言う右が正しいという確率は2割くらいのものだったけど、考えがひっくり返った。どうも右のほうが8割の確率で生きて帰れそうだな」となったら、「納得」レベルになります。ここに至れば、信頼されるだけではなく、好かれる上司にもなれます。
ただ、仕事上で信頼されるという意味では、2番目の「共感」まででも実は十分です。「何としてでも、部下全員から納得レベルで信頼されなければ」と、まじめにがんばる必要はありません。
極論ですが、部下から「上司のことは人間的には好きではないけれど、言っていることはおかしくない」状況になれば御の字なのです。
そもそもチームにメンバーが10人いれば、性格的に自分と合わない人が2割くらいいてもおかしくはありません。その合わない人を「納得」レベルに持って行くのは至難の業。その人を「納得」レベルまで持って行くには、しょっちゅう飲みに行ったり、面談をしたりしなければならないので、大変な労力を要します。そこは「しょうがない」と割り切ってもいいでしょう。
では、どうすれば部下から「共感」レベルの信頼を得られるのか。1番大事なのは、自分の「思いを明確化する」ことです。ポイントは4つ。
1つ目は、ビジョンの明示。つまりこのチームを、自分はどういうチームにしたいかを明確にすることです。「笑いが絶えないチーム」でも「一見みんながバラバラに動いているようでいて、実は連動しているチーム」でも、何でもいいのです。
2つ目は、チームのミッションを掲げること。ミッションとは、自分たちのチームがやるべきことで、それはイコール周りから期待されていることです。
人事部で採用の仕事をするときで言えば、期待されているのは「100名採ることなのか、3名の非常に優秀な人材を確保することなのか」といったことをきちんと示し、文字に表わさなくてはいけません。
3つ目は、その年度末には達成していたいストレッチ目標の設定。達成確率で言えば3割くらいでしょうか。がんばれば不可能ではないけれど、簡単ではない、というところにするのがちょうどいいと思います。
4つ目は、そのストレッチ目標を実現するために、チームメンバー全員が共通して力を入れる行動目標を決めることです。「大きな声で挨拶しよう」でも「週に1度、進行中の案件について意見交換会を行おう」など、みんなで共通に取り組めることなら何でもいいでしょう。
最初の2つは、上司が異動しない限り、基本的に変わらないポリシー的なもので、後の2つは年度限定の具体的なものです。
これら4つの「思い」について、上司は自分で考え、自分の言葉で語ることが大切です。誰かの受け売りではなく、自分の思いを込めた言葉だからこそ部下に伝わり、信頼を得ることができるのです。
この思いは、1回話しただけでは伝わりません。何回も同じことを言い続けてはじめて、伝わるものです。
上司が自分で考えるこの「思い」が明確になっていない限り、その後のステップ(組織運営)はうまくいきません。